当店の鉄扇(ステンレス)は下記の工程で作っています。
1. 親骨の製作: ステンレス板をレーザーまたはマシニングで型取り切り抜き成型
2. 親骨の表面研磨とバフ研磨
3. 中骨の製作
4. 扇子紙の製作:和紙を貼り合わせ、厚みを合わせる
5. 扇子紙の色付け、および 絵付け
6. 扇子紙の紙折
7. 扇子紙に中骨を入れる
8. 要を通し調整
9. 扇子紙を親骨に接着
10. 最終形状修正、仕上げ
鉄扇の親骨の作るのには、ステンレスの板を基本の形状に切り出し、熟練した職人さんがきれいに研磨していきます。
ある程度の鉄扇の形にするには、寸法によってもちがうのですが、マシニングというコンピュータ制御の機械で削る場合とレーザーという機械で切り抜く場合、そして、完全に人力で最後まで
削る場合があります。
そして、完全に鉄扇親骨の形状になるように研磨していきます。
この鉄扇親骨の研磨は研磨職人さんがすべて手作業で形を整えていきます。
数値制御の研磨マシンと違いますので、職人さんの腕と感がものをいいます。
鉄扇の親骨の形状になったら、バフ研磨という研磨法で表面をきれいに磨いていきます。
このバフ研磨も職人さんの長い経験が必要とされ、鉄扇親骨の出来上がりが左右されます。
すべて手作業ですので、仕上がりは一本一本微妙に違ったものとなります。
鉄扇親骨の表面研磨処理
現在、扇八郎鉄扇の親骨の研磨の種類は ヘアラインと真鏡面の2種類です。
① ヘアライン:
髪の毛の束のように細いラインが入った研磨。
キズがついても目立ちにくい。
市販の修正機で小さなキズの修正が可能。
つや消しのような輝きになります。
反面、表面に汚れが付きやすい。
この研磨には下磨きの際に小さなキズを取っておかなければならないので、研磨にかなりの時間がかかります。
鉄扇の中骨は竹で作られており、この中骨は扇骨業の職人さんが作っています。
扇骨業というのは中骨だけをつくっている職人さんのことです。
最近ではこの中骨は70%が中国産です。
中国産の竹の中骨は国産に比べると明らかに質が劣っています。
ですから、扇八郎では国産の竹を使っています。
以前は大勢いた中骨を作る職人さんは今ではみなさん高齢になっており、当然ながら人数が激減しています。
鉄扇に使う中骨は通常の扇子に比べて太く丈夫にしないと使用に耐えられません。
硬い金属である鉄扇の親骨を基にして形状や太さ、寸法を決めていきます。
普通の扇子は、竹や木の親骨を基にして作業してきたので、しなりのない金属で作られた鉄扇の親骨での作業はなおさら大変なことです。
独特のバランス感覚も必要になります。
また、竹は割れやすいので、ひとつひとつの作業には一瞬の気の緩みもぬけません。
当店の鉄扇の中骨は職歴50年以上の職人さんが1本、1本、手作業で国産(島根産)の竹を使って作ってくれています。
鉄扇に使われている扇子の紙は特殊な構造になっており、紙を両面から2枚重ねただけのものではありません。
2枚の中にもう1枚入っていて中骨が紙の中にうまくはいるようになっているのです。
紙も様々な厚さがあり、鉄扇の大きさや親骨の厚さ等、それぞれの形状に合わせて紙の種類を選んでいます。
紙屋さんが扱っている扇子紙は白色のみですので、色付けは別の職人さんの仕事になります。
当店で使用している鉄扇の扇子の紙は、京都の老舗紙屋さんから和紙を送っていただいて、独自の色を染め、折り上げています。
一般のみなさんには扇子の紙を折るのがそんなにむずかしいものとは思わないでしょう。ところがです。
寸法どおりにきちんと折っても両端が凸凹になってしまします。
扇子の紙を折るのには長年の経験・技術・感・そして、その他もろもろの自分だけのノウハウが必要なのです。
普通の扇子は親骨が竹で出来ているものがほとんどです。
親骨の幅や厚みもだいたいの規格があり、紙の大きさや厚さも決まっています。
紙を折るには型を使って折っています。
しかし、鉄扇の場合は製作者が独自に大きさや太さを決めているので、紙の大きさや厚さがバラバラで扇子紙を折るのには折職人さんの独自のノウハウが必要となります。
この折りの仕事も熟練の職人さんに頼よざるを得ません。お世話になっております。
もちろん当店の鉄扇の紙も熟練の紙折屋さんが一枚、一枚、一生懸命に折ってくれています。
折りあがった紙に中骨を差して仕上げます。
この時は鉄扇の親骨はまだ付いていません。
紙に竹の中骨を差し込むだけなら簡単なことだろうとみなさんには思えますが、この作業も熟練技術を要します。
中骨が紙の真ん中に入らない。つまり差しこめないのです。中骨を差しこむと同時に糊を使って貼り付けていきます。
そして、親骨が付けられるのです。
紙に独自の色を付けつける作業とともに、この仕事も職歴50年以上の職人さんが受け持ってくれています。
扇子を開く時に支点となる部分の金具のことです。
扇八郎の鉄扇の金具も特注で作っています。要の部分には紐やチェーン・その他、落下防止の吊り具などが取り付けられるようになっています。
肝腎要(かんじんかなめ)と言われるように大切な部分です。強度を保つため、ステンレスで精密加工されています.
また、この要は取り外しが出来るようになっていますので、鉄扇の中身の扇子部分の取り換えがご自分で行えます。
破損してしまった場合や今使っている色以外のものに代えて雰囲気を変えることもできます。
扇子部分の色はそれぞれのサイズで4種類づつ用意しています。
1本の鉄扇が出来上がるまでには大勢の熟練した職人さんの力を借りています。
ステンレス加工・精密加工、研磨には3つの業者さん。
中骨を作ってくれているTさん。
紙を提供してくれているBさん。
紙を折ってくれているCさん。
仕上げ作業のYさん。
そして上記の方々の伴侶さん。
この中の一人でも欠けると当店の鉄扇はできません。
不思議な縁
ほんの、ふとしたきっかけで作り始めた鉄扇ですが、何かの縁があったのでしょうか、
それまでは顔も名前もまったく知らなかった人たちが損得抜きで協力してくれました。
まるで前世でもお互いに助け合っていたかのように。
おのおのの分野では最高の人たちが知恵を出し合いようやく製品にできました。
みなさんに感謝します。
特に最初に試作のステンレス親骨を切り出してくれたT製作所の社長さんは一番初めの試作品を作る時、「協力させていただきます。
材料は今あるもので新しく買ったものではないので、代金はいりません。
うまくできるといいですね。」と言ってくれて提供してくれました。
特注の中骨を作ってくれたTさんも、「話はわかった。作ってやる。でも、暇だからじゃないで。
今の仕事量でめいっぱいじゃ。
テレビや雑誌の取材も全部ことわっているで。
でも、これも何かの縁だ。ほんだで、今回のぶんの金はいらん。」と。
こういう人たちばかりが集まりました。
こういう人たちで作っています。
みなさんそれぞれに何十年とその道ひとすじに仕事に打ち込んできた人たちです。
ひとつひとつの作業、仕上がりになみなみならぬこだわりを持っています。
「これではダメだ。鉄扇と言えども扇子だ。直してくれ。」と言われたこともたびたびありました。
1本、1本にみんなの気持ちが込められています。
護身用にはぴったりで、お守りの代わりにもなるでしょう。
そして、扇八郎の鉄扇はすべて国産の材料を使って日本人が作っています。
鉄扇袋も近所のおねえさんが手作業で作ってくれています。
いい製品を作っていきます。
まだ鉄扇の値段は少々高いかもしれませんが一生使えるものと自負しています。
近頃、国内でも毎日のように誰かが刺されています。
いままで世界で最も安全と言われ続けてきた日本ですが、最近では危険な目に会うことが多くなってきました。
そろそろ自分の身は自分で守る癖をつける時期ではないでしょうか。
鉄扇がその役目を少しでも果たせればと願っています。